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札幌高等裁判所 昭和30年(う)281号 判決

控訴人 被告人 砂田留次郎 外一名

弁護人 海老名利一

検察官 栗坂諭

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人海老名利一提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右控訴趣意第一点(法令の適用の誤)の一について

しかし、婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令第二条違反の所為と札幌市風紀取締条例第六条違反の所為とは、各規定の内容からみて、別個独立の犯罪を構成し、後者の所為が当然前者の所為に包含される関係にあるものと解し得ないから、所論は、この点において前提をかき、到底採用するを得ない。

同二について

原判決が、被告人砂田留次郎に対する昭和二十九年十二月二十七日付起訴状記載の札幌市風紀取締条例第六条第二項違反の所為と同年同月二十八日付起訴状記載の札幌市風紀取締条例第六条第二項違反の所為とが常習犯の一罪をなすものと認定しながら、主文において後の起訴事実に対し公訴棄却の言渡をしなかつたことは、本件記録に徴し、所論のとおりである。しかし、検察官としては、後の起訴事実が前の起訴事実と併合罪の関係にあるものとの見解のもとに追起訴の形式を以て、前の公訴の繋属している原裁判所に対して公訴を提起したものであることも本件記録に徴して明らかである。而して、かかる場合、後の起訴事実は、本来、訴因追加の形式を以てなさるべきであり、しかも、追起訴と訴因の追加とは、その方式、要件、効果等を異にし、追起訴を訴因の追加と認めることはできないとしても、おおよそ、追起訴も訴因の追加も当該行為について裁判所の審判を求める行為である点において変りがないことおよび追起訴は、訴因の追加よりも丁重な方式でなされることに鑑みると、同一の手続で審理が行われる以上後の公訴を棄却し、改めて訴因の追加をさせることは、訴訟経済に反するから、そのまま、実体的判決をして差支えないものと解すべきである。原裁判所は、これと同一の見解に立つて前記両事件を併合して審理し、すべてを常習犯の一罪をなすものと認定したものであることが認められるから、前説示に照し、原判決が特に後の起訴事実について公訴棄却の言渡をしなかつたからといつて、何等違法はない。論旨は理由がない。

同第二点(いずれも量刑不当)について

本件記録ならびに原裁判所で取調べた証拠により認められる被告人砂田留次郎、同砂田ミツヱの本件各犯行の動機、態様、回数その他諸般の事情を総合すると、所論を考慮に容れても、被告人両名に対する原判決の量刑は相当であつて、不当に重いとは認められないから、論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件各控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)

弁護人海老名利一の控訴趣意

第一、法律の適用に誤りがある。

一、原審は判示第一、第三の事実を、勅令九号違反とし判示第二、第四の事実を市条例違反として判示して居る。右勅令九号第二條に婦女に売淫させることを内容とする契約とある、それ故に婦女に売淫をさせる内容を包含する契約は如何なるものであつても之が条文に該当するものである。

二、判示第二、第四の事実は売春の為に室を提供したと認定して居る、之を合目的に解釈すると、勅令九号第二条に該当する契約の内容である。契約なくして売春の為に室の提供と云うことはあり得ない。之は窃盗罪に於ける賍物の処分を窃盗罪の事後処分として居るものである。

三、それ故に売淫を内容とする契約と売春のために室の提供は勅令九号第二条に包含されて居るものである。特に同勅令第三条に未遂罪を認めて居るところより推論しても判示第二、第四は判示第一、第三に当然包含されるものである。

四、又刑法上契約と云うものは、民法上の法律行為のみを云うものでなく、意思表示の合致及び事実行為も包含されて居るものである。これは同勅令九号第三条に未遂を認めて居るが民法上の契約には未遂と云うべき場合が想像し得ないからである。以上の理由より判示第二、第四の事実は判示第一、第三の事実に包含されそれ故に勅令九号第二条の適用のみで然るべきを市条例を適用したのは違法である。

五、刑事訴訟法第三三八条第三号に反する違法がある。

被告人砂田留次郎に対して昭和二十九年十二月二十七日同月二十八日に夫々起訴を為したものである。両起訴状の第二の事実は常習として云々と記載してあり、同一種類の内容である。常習犯は一罪である。それ故に常習犯として一度起訴するに於ては前の起訴と後の起訴の間に於て常習性の中断が必要で中断がなされないときには前の起訴は後の起訴をも当然に包含されているものである。それ故に昭和二十九年十二月二十八日附の起訴は二重起訴になる。因つてこの点に付き公訴棄却の裁判を為すべきである。然るに原審は之を怠つた違法がある。

第二、量刑不当

被告人砂田留次郎に関して、一、被告人留次郎は前科はないものである。且本件行為に付き共同正犯として認めることは苛酷である。被告人留次郎は同人の妻即ち相被告人と本件の営業を為して居たもので被告人留次郎は之を嫌つて小樽市に子供等と共に暮して居たものである。それ故に幇助罪の程度にしかならないものである。然るに被告人留次郎に対しては懲役刑を選択し本犯と認められる相被告人(妻)に罰金刑を選択して居るので量刑に付き均衡を失して居ると思われる。二、本件の如き罪質の犯罪に付き多数事件が貴庁に繋属して居るが夫婦が共同被告人として起訴されていることは珍らしいことである。本件の如き犯罪は夫婦者が営業を為して居る者と独身者が営業を為して居るものとあるが、夫婦者が営業を為して居る場合には社会常識として常に共同正犯或いは従犯の罪に該当する結果になる。然るに前記の如く夫婦者が営業して居る者で起訴された場合でも夫婦の一方のみが起訴されて居るにも拘らず本件に於ては雙方が起訴されたもので起訴の公平を失して居る。且つ親子及び夫婦が共犯の場合に親子の一方夫婦の一方のみを起訴するのが常道である。然るに之の常道に反するには他に特別の事情が存する場合である。本件に付き特別の事情は本件記録には発見し得ないものである。之等の点を斟酌して居らない。三、原審は被告人留次郎の各罪に付きいずれも懲役刑を選択して居る。別示第四の罪につき相被告人ミツヱは昭和二十九年八月二十三市条例違反で罰金七千円に処せられている。然るにこの点に付き被告人に懲役刑の選択は刑の均衡を失して居る。四、被告人ミツヱは本件に付夫の意に反しての行為でありその結果夫被告人留次郎が妻被告人ミツヱより重い刑に処せられることは夫婦間に不和の原因ともなるので社会政策的考慮を以つて夫婦同等の罰金刑が相当である。本件の如き犯罪に付本件起訴前には看過して居り且つ時折罰金を以つて処罰して居たものである。然るに突然之を懲役にするとは遺憾である。之を懲役にするには他に何等か理由があるべきであるが何等理由を考へ得られない。若しも厳罰に処するならば警告を発した後更に反する者を厳罰に処すべきである。それ故に懲役刑に処するには時期尚早と考える次第である。

被告人砂田ミツヱに関して、五、被告人ミツヱに対して罰金合計四万円は相当に重い罰金刑である。特に被告人ミツヱの夫に対しては懲役四月に処しているので之を併合して考えると相当に重く他の事件と均衡を失して居る。以上の点を原審は看過して居るもので原判決は破毀を免かれないと信ずるものである。

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